ゾーンの脳科学

マインドタイム 0.5秒の遅れ

意識は後から生まれる

「ピッチャーがボールを投げた」とあなたが意識したのは、実際にはボールが投げられた「0.5秒後だ」と説明を受けたとき、あなたは納得できますか?

恐らく、「ボールが投げられたのを意識できないでどうやってボールを打つんだ?」と思われるでしょう。

最初に断っておきますが、これからの説明は一般常識とはかなりかけ離れています。ですから、常識的に理解しようとすると、なかなかピンとこないでしょう。

しかし、ここで取り上げる事象は、最新の神経学・神経心理学では常識であり、厳密な実験で証明されている「事実」です。

頭だけで理解しようとせず、実際に起きた過去の「ゾーン」体験を思い出してみてくだい。あなたが直感レベルで戦っているトップアスリートであれば、共感できるところがあるでしょう。そして、「考えないで感じる」メンタルトレーニングに適しているといえます。

0.5秒の遅れ=意識の時間

これは、私が「ゾーン」体験の多くを説明できると考える、リベット博士の「マインド・タイム理論=0.5秒の遅れ」というものです。

リベット博士は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の名誉教授であり、古くから、この理論を築き上げてきた神経学の世界的権威です。

この理論を簡単に説明すれば、私たちが何かを「意識」するとき、そこには必ず「0.5秒の遅れ」が発生するというものです。つまり、ピッチャーがボールを投げたのを、あなたが「意識」したときには、それは実際に投げた「0.5秒後」ということです。

事象の発生と、事象の意識には、必ず0.5秒のラグがあるということです。意識が生まれるには0.5秒はかかるということ。

常識的でないでしょう?

ただ、リベットは、この事実を、厳密な実験で証明したのです。そして、この事実からわかるのは、野球で言えば、次のようなことです。

例えば、ピッチャーが時速140キロのボールを投げる場合、ボールはホームまでは「0.45秒」で到達します。したがって、ボールを投げたと「意識」してからバットを振るのでは絶対に間に合いません。ですから、通常、打者は全て「無意識」でボールを打っているということです。

実は、「ピッチャーがボールを投げた」という意識だけでなく、「ボールが内角高めにきた」や「ボールを打った」という意識も、0.5秒遅れて発生しているのです。

このように何かを意識するには、必ず0.5秒の遅れが発生します。しかし、意識が生まれていなくても、体は反応できます。神経メカニズム上は、反射的に体を動かすのに、「0.15秒」程度あれば可能で、繰り返しによって習得された技術であれば、もっと早く対応できます。

このような事実から考えると、良い打者・強打者のいくつかの条件がわかってきます。実際、リベットもその著書「マインド・タイム 脳と意識の時間」の中で、同じサンフランシスコのバリー・ボンズ選手が、優れた打者である理由について検討しています。

コーチや監督は、「ボールをよく見ろ」というようなアドバイスをすることが多いようですが、このような事実から考えると、もっと適したアドバイス法がみえてくるのです。

しかし、この理論はあまりにも常識的でないので、なかなか受け入れられません。そして、「ボールをよく見ろ」という常識的なアドバイスが幅をきかせています。

 


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