ゾーンとは、アスリートが極度の集中状態にあり、他の思考や感情を忘れてしまうほど、競技に没頭しているような状態(感覚)のことです。
ゾーンは「異次元体験」といわれることもありますが、決して「異次元」ではありません。
ゾーンは、これまでの練習や経験の中で積み重ねてきた「真の能力」を十全に発揮している状態に過ぎません。今までできなかったことが急にできるようになる魔法ではないのです。
スポーツに真剣に取り組んでいれば、誰でも体験できるものです。
残念なのは、多くのアスリートが、自分でゾーンへの入口を塞いでしまっているということです。一番顕著なのが、必要以上に試合中に考えてしまっているアスリートが多すぎます。練習では考えるべきですが、試合では必要以上に考えてはいけないのです。
このことを正しく理解し、試合に向けて準備していけば、より頻繁にゾーンに入れるようになります。
このページでは、経験豊富なプロのメンタルコーチが、あなたが正しくゾーンを理解し、ゾーンをより頻繁に体験するための知識とノウハウを提供しています。
ぜひ参考にしてください。
ゾーンとは何か?
スポーツで素晴らしい結果を出すことができた試合やプレーの最中に、こんな感覚を持ったことはありませんか?
- リラックスしているのだけど、ものすごく集中している
- 試合が自分の思うように進み、負ける気がしない
- 体と心が完全に一体化していて、自然に体が動いているような感じ
- 体の調子も良く、気持ちもワクワクしている
- なにもかもうまくいって最高の気分。絶好調
真剣にスポーツに取り組んでいるアスリートであれば、こうした感覚を過去に一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
単に調子がいい、とても集中している、というだけでなく、「心と体が完全に調和した無我の境地だった」「体が勝手に動き、苦痛を感じなかった」「試合をやっている自分を上空から眺めていた」など、選手にとって「何か特別なことが起こった」と感じさせるような感覚です。
「ゾーン」体験が、必ずしも競技上での成績、結果に結びつくとは限りません。また、最高の結果を出した時に、必ず「ゾーン」体験をする、というわけでもありません。ですが、多くのスポーツ選手が、最高の結果と「ゾーン」体験を結びつけて語っていることは確かです。
この「ゾーン」体験は、選手の持っている力を最大限に引き出してくれますが、それだけでなく、この体験は選手にとって、スポーツの喜びと生きる喜びが一つになる、とても幸福な体験でもあります。
その幸福感、充実感は、結果以上に、「スポーツは素晴らしい!」、「もっともっと続けたい」と思えるモチベーションとなります。
人生観を変えるほどの強烈な「ゾーン」体験はトップアスリートでも、なかなか経験できないことですが、「ゾーン」体験は特別な人だけに起こるものではありません。ただ、ほとんどの人にとって、それは偶発的に、たまたま起こるもので、起こそうとして起きるものでもないのです。
では、「ゾーン」体験を意図的に起こすことはできないのでしょうか。結論からいえば、100%の確率で「ゾーン」体験をすることは不可能ですが、その確率を高めることはできるのです。
「ゾーン」とはどんな体験でしょうか?アスリートたちの声
ゾーンに入ったときの感覚はどういったものでしょうか?多くのスポーツ選手、アスリートたちが、究極の集中状態、「ゾーン」について語っています。
ゴルフ選手
あの日の感じは忘れられません。リラックスしているのだけど、最高に集中していて、余計な力みが全くないんです。試合前の練習でも、ボールはクラブのど真ん中にスコーンと当たるんです。今日は調子いいぞ、と、ワクワクしていました。ゲーム中は何の不安も緊張もなく、心と体が完全に一体化していて、ただ無心にゴルフをやっているだけ。勝手に体が動いているような感じでした。正直言って、スコアも気にならないくらいでした。そして、自分でも信じられない好成績が出たんです。
テニス選手
全てが流れるように進み、相手の選手の動きも面白いように分かりました。風の動きや観客の声、審判の姿…。試合に100%集中しているにも関わらず、いろんなものが目に飛び込んできました。どこか別の場所から会場全体を見降ろし、自分の動きをコントロールしているかのような錯覚さえありました。
水泳選手
流れるように体が動き、苦しさは全くありません。しかも、意識ははっきりとしていて、体がどう動いているのか指先の動きまで把握していました。それでいて水の抵抗を全く感じないんです。自分が水と一体化したような感じ。そのレースで自己ベストを更新できたのですが、レース後も不思議と疲れが出ず、ハイ状態でしたね。
自転車競技の選手
「自分が自転車と完全に一体化していて、まるで自動操縦で走る自転車に乗って滑るように進む風景を眺めている、というような感覚でした。でも、ぼおっとしていたわけではないのです。ギアの状態や、自分が今何番目にいるか、他の選手がどう動いているかといった情報は自然に把握できていました。レース終盤、ラストスパートをかけたのですが、苦しいという感覚もなく、すっとスピードを上げていくことができました。
「ゾーン」Q&A
Q.ゾーン体験は、誰もが体験できる感覚なのでしょうか?
スポーツに真剣に取り組んでいる人であれば、誰でも体験できる可能性があります。
「ゾーン」はそれぞれの選手が個々に知覚する感覚でしかありません。ただ、非常に個人的、感覚的なものではあるのですが、多くのスポーツ選手が、素晴らしい結果を残した後に語る「ゾーン」体験は、競技が違っていても共通する部分が多くあり、誰もがスポーツを通して知りうる感覚であることは確かです。
測定装置をつけて「今のがゾーンです」と厳密に定義できるものではありませんが、近年、脳科学が進むにつれて、ゾーンが起こるメカニズム、ゾーンが起きているときの脳状態がわかるようになってきています。
Q.「ゾーン」体験は科学的に証明されているのでしょうか?
「ゾーン」体験は、主観的なものですが、神秘体験ではありません。その証拠に、心理学、体育学、生理学、神経学などの分野における学術的な研究対象となっています。
何をもって「科学的証明」とするかは難しいのですが、「ゾーン」が起こる神経メカニズムについての研究、「ゾーン」が起こる条件についての研究、「ゾーン」体験とパフォーマンスなどの研究が活発に行われています。
ただし、「ゾーン」体験は、研究者の間では、「フロー」体験と呼ばれることがほとんどです。
Q.「ゾーン」体験で実力以上の成果を出すことは可能ですか?
「ゾーン」体験は、スポーツにおける技術の習熟、練習を通して身につけた技能といった実力以上の力を発揮させるものではありません。なんとか25メートル泳ぎきるのが精一杯という初心者が、「ゾーン」体験をする、ということはまずありえないし、あっても、それでいきなり大会で優勝する、といったことは起こりません。普段の練習の繰り返しによって技能が意識する必要が無いほどまで高まった上で初めて、運動神経、身体感覚に心を傾けることができ、「ゾーン」体験ができるようになる、ということは理解してください。
Q.スポーツの種類によって、「ゾーン」体験は違うのではないでしょうか?
その通りです。
どんな種類のスポーツでも、「ゾーン」を体験することはできますが、スポーツによって、「ゾーン」体験の種類が違ってくるものです。
例えば、射撃、ライフルなどの競技では、瞬間的な「ゾーン」となる場合が多いでしょうし、マラソン競技などでは、ある程度の長時間、継続的な「ゾーン」となるでしょう。
また、競技を問わず、一瞬のミラクルプレーで「ゾーン」を体験する場合もあります。競技によって、求められるスキルや能力が違うので、「ゾーン」体験の仕方も違うのです。
Q.スポーツ以外でも「ゾーン」体験をすることはありますか?
あります。
前述のとおり、スポーツ界で使われている「ゾーン」体験は、「フロー」体験と呼ばれているものです。「ゾーン」体験と同じく、フロー体験は、時間を忘れてしまうほど何かに没頭する体験で、芸術家、俳優、音楽家、外科医、スポーツ選手などの特殊技能をもった人間に起こりやすいとされています。
「ゾーン」体験は、スポーツという「瞬間の反応」「運動技能」が求められるスポーツ分野における、一種独特の「フロー」体験と考えて間違いありません。
このような体験の喜びはあまりにも大きいので、そこに到達するための困難を克服するエネルギーを与えてくれるのです。それはスポーツでも、芸術でも、演奏でも同じことです。一流の人たちが、さらに伸びていく過程の中で、「ゾーン」体験は不可欠です。厳しい練習を乗り越えるエネルギーや喜びを与えてくれるのですから。
Q.どうしたら「ゾーン」体験ができますか?
「ゾーン」体験をするために絶対に欠かせないのが、あなたが取り組む競技において、体が反射的、本能的に反応できるまで、技術や技能を磨き上げることです。
そして、大事な試合で、できるだけ余計なことを考えず、心と体の両方が集中できていれば、あとは自然と「ゾーン」体験が起こります。
というのも、「ゾーン」とは、反復練習で築いてきたスキルを、余計なことを考えることなく、本能的に発揮するだけなのですから。だからこそ、あなたの持つ最高の力を発揮できるのです。
しかし、ご存知のとおり、それが難しい。プレッシャーの少ない試合や練習では、実力どおりの力が発揮できるのに、ココ一番で発揮できない。ついわかっていても、不安がよぎり、余計なことを考えてしまいます。
ゾーンに入るには、練習では考えるが、本番では考えない
これまで解説してきたとおり、余計な思考こそが、ゾーンに入るが邪魔をしています。
だからこそ、ゾーンに入るためのメンタルトレーニングは、「考えないで、感じる」を実践するためのメンタルトレーニングになります。
しかし現状、ほとんどのアスリートは、監督やコーチから、「もっと考えて練習しろ!」とか「頭を使え!」と言われていることが多く、「考えないことはいけないこと、怠け」のように思ってしまっている人も少なくありません。
まずこの誤解を解消することから、ゾーンに入るメンタルトレーニングが始まります。
指導者のいう「もっと考えろ!」というのが大事なのは、日常の技術練習においてです。普段の練習においては、しっかり考えて、問題点を修正したり、課題を克服することが大事です。
「考えない」が大事のは、本番において、特に強いプレッシャーがかかる場面です。
強いプレッシャがかかる場面では、考え過ぎることが動きを邪魔するので、考えないことが大事なのです。
普段、多くのアスリートは、練習で考える習慣がついてしまっているがために、本番でも、うまくいかない場面で、頭を働かせて、その局面を乗り切ろうとします。これはこれで、それほどプレッシャーの高い場面でなければ(相手が強くなければ)、上手くいくことも多いのです。
しかし、相手が本当に強く、自分の最大限の力を発揮しなければ勝てない場面で、余計に考えて過ぎてしまうと、体が思うように動かなくなり、思ったパフォーマンスを発揮できなくなります。
考えすぎてはいけないとわかっていても、普段、考える癖がついてしまっているので、なかなか余計な思考や雑念が消えてくれない。
これが問題なのです。
ですから、普段の練習ではしっかり考えつつも、本当に大事で必要な場面では、考えないで、体の本能的な動きに任せられるように、メンタルを鍛えることが、ゾーンに入るためには大事なのです。
私は、ゾーンに入るメンタルトレーニングとして、主に5つのメソッドを強く推奨しています。
- レゾナンス呼吸
- イメージトレーニング
- バイオフィードバック訓練
- オリジナル・ルーティン
- インナー・ゲーム
また、下記のメンタルトレーニングも、それなりに効果的といえるでしょう。
- ヨガ・座禅・瞑想
- 残像イメージ法
- 自己暗示・セルフトーク
これらそれぞれのトレーニング方法と理論は、お勧めメンタルトレーニングのページをご参考下さい。これらのトレーニングがあまり言葉を使わないことがわかるでしょう。
これであなたもゾーンに入る!お勧めのメンタルトレーニング方法
まずはピンときたトレーニングから始めてみて構いませんが、まずはレゾナンス呼吸法から始めるのが、一番確実だと私は考えています。
理由としては、簡単でどこでもできること。そして、それが土台となり、より高度のメンタルトレーニング、とくにイメージトレーニングにつなげることができるからです。